皿の上の告白――暴君の孤独に、火が入る。
食で整え、理で救う。
第10話は、競演の余波で投獄されたヨン・ジヨンの冤罪をめぐる攻防編。王イ・ホンは“審級者”としての理と、一人の人間としての情を両立させながら、朝鮮式レストランいう回復食の一皿で局面をひっくり返します。
🎬 あらすじ（ネタバレあり）
投獄中のヨン・ジヨンに対する取り調べが続く一方、王イ・ホンは水刺間の動線、倉口の出入り記録、調味瓶の封緘や繊維片まで押さえて証拠の保全に動く。やがて一時釈放となったジヨンは王と合流し、誰がどの工程で何を混入したのかを逆算。真明大君の症状は単純な毒ではなく、薬材と食材の相互作用による悪化の可能性が高いと読み替える。
宮中の療養所では医官の解毒薬で痙攣がぶり返し、空気が一気に険しくなる。王は「理で示せ」とジヨンに託し、彼女は“朝鮮式レストラン”と名付けた回復食の膳を整える。ごく薄いブロスに油脂を最小限、塩分も控えめにして、噛まずに崩れるスジェビを柔らかく落とす“飲める食事”。匙一口で脈が安定し、発汗が収まるのを審級の面々が目撃し、料理が治療の前段階として機能するという彼女の論が実地で裏づけられる。
同時に、競演時の辣油と唐辛子粉の不正転用をめぐる線が再浮上。搬入伝票、倉口の時刻、瓶口に付着した繊維片などが突き合わされ、問題の調味にジヨンが触れていないことが明確になる。明側の若手と宮中の一派が結び付いていた疑いが濃くなり、慈賢大妃は体面を保つため処分の軟化を示すが、王は無実の確定まで退かない姿勢を崩さない。
冤罪が解けると、ジヨンは水刺間に復帰。オム・ボンシクら同僚は倉口の見取り図を再検証し、今後の混乱を防ぐため工程と保管のルールを更新していく。王は証拠の保全網をそのまま監視線へと転じ、火種の残る政治の回路を静かに封じにかかる。
夜、温室でふたりは再会する。王は「ここに残れ」と心情をはっきり言葉にし、ジヨンは望雲録への未練と現在の心の居場所のあいだで揺れる。指先に触れる小さな指輪、湯気を立てる温かなブロス。結論は出さないまま、ふたりは“明日の食卓を一緒に整える”ことを合図に、同じ方向へ歩き出す。物語は、真相解明と関係の一歩前進を確かめつつ、彼女が「帰るのか残るのか」という選択に向き合う次章へとつながっていく。
👥 登場人物の動きと関係性
王 イ・ホン（이헌／イホン）
証拠の保全→突合→立証を段取り、理で冤罪を剥がす。同時に、回復食の場を公的審級の舞台に変え、ジヨンの“正しさ”を可視化する。
ヨン・ジヨン（연지영／ヨン・ジヨン）
工程で整える回復食を提示し、症状の鎮静で無実を裏づける。望雲録（帰還）か、王のそば（残留）か——人生の選択に向き合い始める。
慈賢大妃・カン・モクジュ
“体面の保全”を大義に冤罪線を押し通すが、証拠の連鎖で後退。政治の火種はなお残す。
水刺間チーム（オム・ボンシク／メン・マンス／ギルグム）
搬入・倉口の時系列復元、瓶の封緘確認、膳の温度管理でジヨンを支える。
🎯 名シーンと印象的なセリフ
- 「食は薬の前に、身体を“整える”」——回復食の哲学を端的に示す一言。（ヨン・ジヨン）
- 「理で守る。情で支える。」——審級者と一人の人間、二つの顔を重ねる静かな宣言。（イ・ホン）
- 「明日の食卓を、私と整えよ」——告白にも命令にも聞こえる、二人の合図。（イ・ホン）
🍳 料理のガチ解説
※以下は料理技法の専門解説です。劇中の料理要素と工程は一次情報・主要レキャップで確認済みであり、記載の数値・手順は再現のための一般的な料理理論および衛生ガイドラインに基づきます。医療的判断は行いません（食事は体調や医薬との併用指示に従ってください）。
対象エピソードと料理
エピソード：第10話
主料理：回復ブロス＋スジェビ（飲める一膳）
設計テーマ：塩分の低域化・脂の最小化・温度と口当たりの同期（“整える食”）
回復ブロス（クリア仕立て）
01 コンセプト／味設計
- 目的は刺激を抑えつつ、香りと温度で食欲を立ち上げること。
- 澄んだ出汁＋低塩（0.5–0.7％）＋最小脂で“飲める”口当たりを作り、後口は短く。
02 標準配合（約1.2L＝椀6杯）
- 水：1.4L
- 鶏手羽先：400g（または鶏ガラ500g）
- 昆布：6g（10×10cm相当）
- 干し貝柱：10–12g（砕かない）
- 生姜薄切り：2–3枚／長ねぎ青い部分：1本分
- 塩：最終0.5–0.7％（完成量に対する重量比）
- 〈任意〉薄口醤油：小さじ1まで（色付け最小）
03 工程（濁らせない・脂を抑える）
- 下準備：手羽は熱湯10秒→冷水洗いで血と骨粉を落とす。
- 抽出：鍋に水・手羽・ねぎ青・生姜・干し貝柱。沸騰直前で弱火へ。88–92℃を60–75分維持（泡は“ポコポコ未満”）。
- 昆布：60分手前に投入→15分で引き上げ。
- 澄ませ：キッチンペーパーで静かに濾す。表層脂はお玉の側面でそっと掬う。
- 塩入れ：完成量を計って**0.5–0.7％に合わせる。提供直前75–80℃**へ再加温。
04 トラブルと対策
- 濁る：強沸騰／急激な撹拌→温度90℃前後固定、触りすぎない。
- 匂い重い：手羽の下処理不足→ブランチング徹底、ねぎ青を新しく。
- 薄い：還元不足→蓋を外して弱火で10–15分煮詰める。
スジェビ（“飲める一口”に寄せた柔らか設計）
01 コンセプト
- 噛まずに舌で崩れる薄さ・柔らかさ。小麦の香りは弱め、とろみ要素としてブロスに溶けすぎない薄膜を作る。
02 標準配合（2人前）
- 薄力粉：200g
- 水：100–120g（湿度で調整／基準は粉：水＝2:1）
- 塩：1g（0.5％）
- 〈任意〉米油：小さじ1（口当たりを滑らかに）
03 生地と成形
- 粉・塩を混合→水の8割を加え、粉気が消えたら残りを少しずつ。
- こねすぎない（グルテン過多＝硬化）。1–2分まとめてラップ30–60分休ませ。
- 指で1–2mm厚にちぎって伸ばす。“透ける一歩手前”が目安。
04 茹でと合わせ
- 別鍋の沸騰湯に塩ひとつまみ。スジェビを散らし入れ、2.5–3.5分。
- 網で上げて水気を切り、75–80℃のブロスに落として30–60秒馴染ませる。
- 提供は具＜汁＞麺の順で、麺が沈み過ぎない浅めの椀へ。
05 失敗学
- 硬い：こね過多／休ませ不足→こねを短く、休ませ延長。
- 溶ける：薄すぎ／茹ですぎ→厚み1.5mm目安、時間短縮。
- 粉臭い：生地の水和不足→休ませ30分以上。
- ダマ固着：投入時の重なり→1枚ずつ散らす／湯面を軽く撹拌。
“整える食”の運用指針（第10話テーマの要点化）
- 塩分レンジ：0.5–0.7％（スープ全体）。味が弱い時は塩ではなく**温度78–80℃**に上げて香りを立たせる。
- 脂管理：表層脂は最小。コクは干し貝柱の旨味＋温度で補う。
- 香辛料：胡椒は提供直前に上面へ少量（揮発で香りの立ち上がりを作り、刺激は最小）。
- 器設計：椀は70℃以上で予熱。一口目の湯気→香り→口当たりの順で立ち上げる。
- 代替食：小麦を避ける場合は**薄粥（米：水＝1：10、塩0.5％）**に置換し、同じブロスで運用。
オプション：軽い副菜（添え）
- 白身魚の蒸し物（塩0.6％）：80–85℃蒸気で6–8分、表面に香味油1–2滴だけ。
- 柔らか青菜の塩茹で：90–95℃×20–40秒→冷却→ごく薄い塩出汁で温め直し。
衛生・保存（必読）
- ブロスは10℃以下まで2時間以内に急冷→4℃で48–72時間保管可。再加熱は75℃以上。
- スジェビは食べ切り（伸びやすい）。作り置きは生地で冷蔵1日まで。
- アレルゲン：小麦・鶏・貝を表示。体調や医薬との併用は専門家の指示に従う。
🌟 感想・考察
料理を結果ではなく前提として置き直しました。毒と解毒の綱引きに対し、ジヨンが差し出すのは“薬の前に体を整える”ための回復食。塩分域、温度帯、口当たり——工程を微分して積むことで、食が**理（ロジック）**として機能する瞬間を見せてくれます。これがそのまま冤罪を剥がす論拠になっていく構図が痛快でした。
王は審級者でありながら、証拠の保全や帳簿の突合といった段取りの政治も回します。理で守り、情で支える。二人の関係は甘さ一辺倒ではなく、職能の尊重を通じて温度を上げていく。温室の静かな会話は、約束の言葉よりも、翌朝の食卓という具体で愛を描く“このドラマらしさ”の到達点でした。
📂 まとめ
冤罪の霧を晴らしたのは、技巧の誇示ではなく回復の工程でした。朝鮮式レストランという一皿は、食が人を救う手続きであることを証明し、同時にジヨンの無実を立証する武器にもなった。王の理と情が噛み合い、二人の未来に現実的な輪郭が与えられます。
しかし、政治の火種は消えていません。面子を守るための嘘、流通を握る者の影、望雲録の行方。第10話は関係の確かさと世界の不確かさを併置し、次回の選択——帰るのか、残るのか——を高い熱量で迎える準備を整えました。
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