最後の一皿が、暴君とシェフの宿命を決する。
資源が消えたら、工程で勝つ。
第8話は、対外“料理競演”がいよいよ本番。会場入りしたヨン・ジヨンを待っていたのは、コチュジャンと**コチュカル(唐辛子粉)**が忽然と消える非常事態でした。設計のやり直し、ラウンド裁定の駆け引き、そして次の一手へ——工程で不利を覆す回です。
🎬 あらすじ(ネタバレあり)

競演会場に入ったヨン・ジヨンを待っていたのは、コチュジャンと**コチュカル(唐辛子粉)**の不在だった。水刺間チームは即座に庫内・搬入口・調理台を確認するが見当たらず、明側の熟手と付き人が行き交う喧噪のなかで、ジヨンは「調味が消えた前提」での設計に切り替える決断を下す。初手に想定していた“辛味設計”を捨て、米酒を基軸にした肉の煮込みへとプランを転換。下ごしらえ済みの牛肉に、香味野菜と香辛料を最小に抑えた構成で、短時間抽出のブルギニョンを立ち上げる。工程は、酒精でたんぱく質をほどき、旨味を早引きし、最後に脂と酸で輪郭を整えるという段取りだ。
開会の口上が終わるとラウンド1が開始される。テーマは“この世にない肉料理”。朝鮮側は米酒ブルギニョンで「未見」を示し、明側は鶏の角切り×辣油の強い香りで“辛・香・油”の三拍子を前面に押し出す。王イ・ホンをはじめ審級の前に両軍の皿が並ぶと、ジヨンは明側の辣油の香りに微かな違和感を覚え、一口で自家製コチュカルの混入を言い当てる。場が凍りつくなか、明側の長老格・唐白龍が真相を質し、付き人のフェイシウが「朝鮮側の人物と交換した」と口を滑らせる。政治の火花が散る中で王はラウンド1=引き分けと裁定。さらに「三戦すべて引き分けなら明の勝利」という条件を明確にして、公正と国家の威信の両立を図る。
休憩を挟み、ラウンド2は「相手国の料理」が題。ジヨンは逃げずに北京ダックを選択する。水刺間は持ち場を割り振り、皮下に空気を送り、湯通し、糖蜜塗布、送風乾燥という定石を時間内で回すが、ジヨンは前夜の負傷が残り、皮の張りと乾燥で狙いのテンションに届かない。そこへギルグムが実務支援に入り、乾燥とオーブン管理を分担。オム・ボンシクとメン・マンスは皿出しの段取りを再構築し、皮・身・甜麺醤系ソース・薄餅の順で一口の完成形を作る設計に統一する。一方、明側は「朝鮮の料理」を掲げ、汁物を軸にした得意領域で点差を広げに来る構えを見せる。
審級席の空気は張り詰めたまま、皮のカーヴィングへ。ジヨンは手の痛みを押して薄片化に挑み、ギルグムが身の整形と温度管理をフォロー。薄餅の温度、脂の乗り、甜麺醤の塗りの薄さまで分刻みで制御し、朝鮮側の盆に香りの立つ一巡目が並ぶ。試食が始まると、王は微かな満足の表情を見せ、審級者たちの筆が走る。得点開示直前、唐白龍の席で辣油の瓶の扱いをめぐる小さな口論が再燃し、会場の視線が一点に集まるが、司会の進行が遮り、場内が暗転。採点は次回へ持ち越される。
合間の控室では、水刺間チームが消えた調味の出所を再検証し、倉口の見取り図と搬入の時系列を突き合わせる。ジヨンは「辛味に頼らずとも勝てる」と仲間を励まし、王は「引き分け続きは敗北」という条件を改めて告げる。政治の駆け引きは舞台裏でも進み、カン・モクジュの働きかけでメン熟手の持ち場に圧力がかかるが、オム・ボンシクの采配で穴を塞ぎ、次のラウンドへの仕込みを途切れさせない。ジヨンは包帯を固く巻き直し、最終ラウンドに向けた工程表を書き換える。物語は、工程で不利を覆し続ける朝鮮側と、物量と圧で揺さぶる明側のせめぎ合いを保ったまま、勝敗の行方を次回に託して幕を下ろす。
👥 登場人物の動きと関係性
王 イ・ホン(이헌/イホン)
不正混入を巡る混乱で公平な引き分け裁定を下しつつ、全引き分け=明側勝利という厳格条件を提示。審級者としての信頼と国家の面目の双方を守る。
ヨン・ジヨン(연지영/ヨン・ジヨン)
資源喪失→工程再設計へ即応。米酒を使う煮込みに切り替え、辛味・酸味・脂の配列を組み替えて“未見の肉料理”を成立させる。ラウンド2では北京ダックに挑む。
水刺間チーム(オム・ボンシク/メン・マンス/ギルグム ほか)
段取り面でジヨンを支援。妨害圧に晒されながらも、代替プロトコルの実装役を担う。
明側(唐白龍/フェイシウ ほか)
辣油への不正転用をめぐって内紛。年長者は公正を尊び、若手は“交換”を弁明。外圧だけでなく内部の綻びも露わに。
🎯 名シーンと印象的なセリフ(要旨・名台詞/厳選)
- 「資源がなくても、工程は残る」——核心調味の消失に対する即応の哲学。(ヨン・ジヨン)
- 「……混じっているな、粉が」——辣油に紛れた自家製コチュカルを一口で看破。(イ・ホン)
- 「三戦すべて引き分けなら、明の勝ちとする」——公平と威厳を両立させる厳格条件。(イ・ホン)
🍳 料理のガチ解説
※以下は料理技法の専門解説です。劇中の料理要素と工程は一次情報・主要レキャップで確認済みであり、記載の数値・手順は再現のための一般的な料理理論および衛生ガイドラインに基づきます。
対象エピソードと料理
エピソード:第8話
主料理:米酒×ビーフ・ブルギニョン(短走化設計)
相手国料理(導入):北京ダック(下処理〜提供直前)
補足テーマ:核心調味(コチュジャン/コチュカル)不在時の**「辛・酸・脂」再構成**
米酒×ビーフ・ブルギニョン
01 コンセプト/味設計
- 狙い:コチュジャン/コチュカル不在でも“未見の肉料理”を成立させる。
- 設計:米酒のアルコールと酸で抽出を短時間化し、脂(牛脂/バター)と微酸(米酢/酒母)で**輪郭(後味)**を整える。
02 標準配合(2〜3人前)
- 牛肩ロース・スネ等(3〜4cm角):700g(下味塩1.0%)
- 玉ねぎ:200g/人参:120g/マッシュルーム:150g
- にんにく:2片/トマトペースト:15g(任意)
- 米酒(清酒 or にごり酒):250ml
- 牛だし or 水:400〜500ml
- バター or 牛脂:20〜30g
- 米酢(または酒母):小さじ1〜2(仕上げで味の稜線を作る)
- 塩(最終濃度):0.6〜0.8%/黒胡椒:適量
- ハーブ(ローレル、タイム等):少量
03 工程(圧力鍋あり/常圧併記)
- 下味:牛肉に塩1.0%をまぶし30分置く→ペーパーで水分を取る。
- 焼き付け:厚手鍋を高温にし、脂で各面をしっかり褐変(香りの核)。
- 香味:玉ねぎ→人参→にんにくを中火で甘みが出るまで。トマトペーストは1〜2分炒めて酸味を飛ばす。
- デグラッセ:米酒を注いで半量まで還元。鍋底のうま味を溶かす。
- 抽出:だしを加え、
- 圧力鍋:12〜15 psiで25〜30分→自然放圧10〜15分。
- 常圧:弱火で80〜120分(肉がスプーンで崩れるまで)。
- 仕上げ:マッシュルームを加え5〜8分。バターを乳化させ、米酢小さじ1〜2で後味を締め、塩分**0.6〜0.8%**に微調整。胡椒で仕上げ。
04 代替・可変
- 米酒の種類:にごり(マッコリ系)は固形分が多い→茶こしで一度濾すと安定。
- 濃度が薄い:蓋を外して還元/または**ゼラチン0.2〜0.4%**で口当たり補正。
- 香りの柱:柑橘皮(ごく微量)でトップノート追加可。
05 安全
- 提供時のソース温度は75℃以上目安。二次提供は急冷→4℃以下で保存、翌日再加熱。
核心調味不在時の「辛・酸・脂」再構成(設計メモ)
01 原則
- 辛:唐辛子不在時は“痛覚”ではなく**温香(生姜)・揮発(胡椒)・痺れ(花椒)**で立体化。
- 酸:米酢/酒母/発酵液を**0.2〜0.5%**で輪郭付け。
- 脂:ネギ油・生姜油・牛脂の澄ましで香りを運ぶ。
02 実装例
- 香味油:中性油100ml+長ねぎ青30g+生姜薄切り10gを150〜160℃で5〜7分抽出→漉す。
- 疑似辣油(唐辛子不在ver.):上記香味油90mlに黒胡椒粗挽き小さじ1/花椒小さじ1/2/燻製パプリカ小さじ1/2(あれば)→60℃で10分保持→漉す。辛味は弱いが香りと温度感で補う。
北京ダック(下処理〜提供直前:時間内運用版)
01 コンセプト/時間配分
- 皮の張りと乾燥が命。時間制約下では送風+糖液で最大値を引き出す。
02 標準手順(1羽・2.0〜2.5kg)
- 皮下エア:ポンプで皮と身を分離。
- 湯通し:80〜90℃の湯を30〜60秒かけ回し→水分を拭き取る。
- 糖液:麦芽糖:熱湯=1:1+米酢**1〜2%**を全体に塗布。
- 乾燥:常温送風で2〜6時間(時間がなければ扇風機+除湿)。表面が指で触れてつかない状態へ。
- 焼成:
- 予熱200℃ 10分(色付け)→170℃ 25〜35分(乾燥)→仕上げ210〜220℃ 5〜8分(パリ化)。
- カーヴィング:皮を均一幅で薄片化。薄餅+甜麺醤(または麦芽糖ベースソース)+白ねぎ・きゅうりで提供。
03 失敗学
- 皮が張らない:乾燥不足→送風延長、糖液を薄く複数回。
- 油が回る:火力不足→最終段の高温化を**+10〜15℃**/時間+2分。
- 香りが重い:糖液過多→塗布量を20%減、焼成の中段を**+3〜5分**延ばす。
04 衛生
- もも付け根の中心温度74℃以上を必達。生焼け兆候(赤い肉汁)なら追加加熱。
🌟 感想・考察
資源喪失からの工程再設計が主題でした。ジヨンがコチュジャン/コチュカル不在を“辛・酸・脂”の組み替えで補い、米酒の溶解力と圧力調理で短走化したブルギニョンを打ち出す流れは、素材の不利を設計で覆すという作品の核をもう一段押し広げます。
王の一口での看破と、公平を貫きつつも条件を厳しく設定する裁定は、彼が恋の相手である以前に最高の審級者であることを再確認させました。ラウンド2の北京ダックは、手負いの状況であえて“王道の象徴料理”を選ぶ胆力が効き、次回の一刀目に期待をつなぐ構図が気持ちよく機能しています。
📂 まとめ
“調味が消える”という最悪のスタートでも、工程は武器になる——第8話はその証明でした。米酒と圧力という手段で未見の肉料理へ到達し、さらに北京ダックという難所へ踏み込んだことで、朝鮮側の“設計思考の強み”が鮮明になります。
一方で、明側の内紛と妨害の露見は、勝敗が単なる美味・不味の領域を超えて公正と威信の問題であることを示しました。全引き分け=明勝利という条件のもと、次回は“工程でねじ伏せる”だけでなく、“審級を納得させる決定打”が求められます。勝ち筋は示され、あとは一口で証明するだけです。
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