甘さで黙らせ、静けさで近づく。
第6話は、明の使節が持ち込む料理競演の前夜。王イ・ホン(이헌/イホン)と待令熟手(대령숙수/テリョンスクス)ヨン・ジヨン(연지영/ヨン・ジヨン)は、黒ごまマカロンを合図に“食で語る”関係へ一歩踏み出します。市場への変装外出、贈り物のやりとり、そして水刺間(수라간/スラガン)に迫る外圧——ロマンスと政治が同時に進行する回です。
🎬 あらすじ(ネタバレあり)

明の使節ウゴンが“朝貢の条件”を盾に、朝鮮と明の料理競演を正式に提案する。随行の熟手たちは水刺間(スラガン)を実質的に占拠して宣戦布告し、宮中は対決準備の体制へ移る。
王イ・ホンはヨン・ジヨンに「帰りたいなら、勝て」と明言し、ささやかな贈り物で距離を縮めながらも出場を迫る。ジヨンは逡巡しつつも、迎撃に向けた仕込みに入る。
ジヨンは題名どおりの黒ごまマカロンを差し出して場の空気をひっくり返し、これが本格的な競演の口火となる。対決そのものは次話以降に持ち越されるが、明を唸らせる一品→競演へ、という流れがこの回で確定する。
競演に向けた秘策として、ジヨンは唐辛子を乾かして粉にする(コチュカル化)方針を打ち出し、同僚に準備を指示。材料調達のため、ジヨンと王は庶民に変装して市場へ向かい、搗き屋で唐辛子を挽かせる。
市場での外出中、ジヨンが目を留めた蝶のノリゲを、王は彼女が席を外した隙に購入。さらに花の靴や絹まで買い揃える。戻ってきたジヨンは、王の心を鎮めるアヤメを手渡し、二人の距離は言葉少なに縮まっていく。
一方、現代へ戻る鍵と信じる古書「望雲録」は依然として所在不明。ジヨンはカバンだけが戻り書物は失われた現実に直面する。王は探すことを約して彼女を鼓舞し、私情と国益が同じ卓に並び始める。
終盤、競演のレギュレーションが明確になる。第1ラウンド=新作の肉料理/第2ラウンド=料理交換(相手国の料理)/第3ラウンド=高麗人参のスープという複数ラウンド制が提示され、朝鮮側に不利な条件が匂わされる。舞台は整い、勝負は次話へ
👥 登場人物の動きと関係性
王 イ・ホン(이헌/イホン)
ジヨンを競合の先鋒に据えつつ、贈り物で距離を縮めようとする。不器用な好意と国王としての責務のあいだで揺れる。
ヨン・ジヨン(연지영/ヨン・ジヨン)
黒ごまマカロンで反撃の口火を切り、迎撃体制を整える。市場外出で王への意識が一段深まる。
カン・モクジュ(강목주/カン・モクジュ)
水刺間への介入を続け、競合の主導権を狙う。
済山大君(제산대군/ジェサンデグン)
政局の圧を高める役回り。競合を梃子に動く気配を見せる。
🎯 名シーンと印象的なモメント
「最高の素材が、最高の料理を保証するわけじゃない」——道具と素材の不利を工程設計で覆すという作中哲学の宣言。(ヨン・ジヨン)
「……粉が立っているな」——一口で粉の存在を即座に看破し、“審級者”としての資質を刻む。(イ・ホン)
「勝て。勝てば望雲録を探す」——私情と国益を同じ卓に載せる条件提示で、競合への火を点ける。(イ・ホン)
🍳 料理・技法メモ(専門解説)
※以下は料理技法の専門解説です。劇中の料理要素と工程は一次情報・主要レキャップで確認済みであり、記載の数値・手順は再現のための一般的な料理理論および衛生ガイドラインに基づきます。
対象エピソードと料理
エピソード:第6話
主料理:黒ごまマカロン(フレンチメレンゲ法)
副要素:唐辛子粉(コチュカル)製粉・保存設計(競演の“秘策”)
黒ごまマカロン(フレンチメレンゲ法)
01 コンセプト/味設計
- 狙い:外圧を“甘さ×完成度”で黙らせる一手。黒ごまの香ばしさを前面に、軽い殻+しっとりフィリングで気品のある後味に。
- 食感ターゲット:薄殻サク→内部わずかにねちっと→24時間の熟成で一体化。
02 標準配合(約20枚=直径3cm ×10組)
- アーモンドパウダー:100g
- 粉糖:100g
- 黒ごまパウダー:8〜10g(生地総量の5〜8%)
- 卵白(常温/“熟成卵白”推奨):80g
- グラニュー糖:80g
- 着色(任意):微量(黒ごま量で十分に色が乗るなら不要)
フィリング例(黒ごまガナッシュ)
- ブラックチョコ:100g/生クリーム:50g/黒練りごま:15g/無塩バター:10g/塩:ひとつまみ
03 前準備
- 卵白:前日〜48時間冷蔵→当日常温に戻す(泡立ち安定化)。
- 粉体:アーモンド+粉糖+黒ごまをふるい2回(黒ごまの粒子でダマが出やすい)。
- 環境:室温20〜24℃、湿度50%以下が理想。天板は二重敷きで底焼け防止。
4 工程(要点)
- メレンゲ:卵白を泡立て、グラニュー糖を3回に分けて加える。**角がやや曲がる(7〜8分立て)**で止める。
- マカロナージュ:粉体を一括で入れ、ゴムベラで底から返す。**“リボン状に落ちて8〜10秒で消える”**粘度まで。混ぜ過多はひび割れ・底抜けの原因。
- 絞り出し:丸口金。直径3cm目安に等間隔で。
- 乾燥:表面に皮膜ができ、そっと触れても指に付かないまで。目安20〜40分(湿度で変動)。
- 焼成:予熱160℃→150〜155℃で12〜16分。途中で天板を回転し、ピエ(“足”)が低く均一に出る火入れを狙う。
- 冷却:天板ごと粗熱→シートから外す。
- フィリング/熟成:殻が完全に冷めてからフィリング。**4℃で一晩(12〜24時間)**熟成すると一体化。
05 トラブルと対策
- ひび割れ:乾燥不足/オーブン風。→乾燥延長、対流強い場合は天板を一段下げる。
- 空洞化:混ぜ不足・高温過多。→マカロナージュを数回追加、焼成温度を**-5℃**。
- ピエが出ない:乾燥不足/過混ぜ。→乾燥延長または混ぜ過多を避ける。
- 底抜け・底ベタ:焼成不足。→+1〜2分追加、二重天板の見直し。
- 色がくすむ:焼き過多/粉体酸化。→温度**-5℃**、黒ごまパウダーは直前に挽くか密封保管。
06 衛生・保存
- アレルゲン:卵・乳・ナッツ・ごま。表示必須。
- 保存:完成後は4℃で2〜3日。長期は密封で冷凍1か月(提供前に冷蔵解凍)。
- 水分管理:殻が湿気やすいので乾燥剤同梱推奨。
唐辛子粉(コチュカル)製粉・保存(競演“秘策”の再現)
01 コンセプト
- 狙い:色=鮮紅、香り=日向香、辛味=中辛(後口すっきり)。工程設計で素材の差を覆す。
02 原料選定
- 完熟赤唐辛子:皮が薄く、種子・胎座の水分が抜けやすい品種。
- 辛さ設計:辛味は主に**胎座(白いワタ)由来。→辛さ弱:胎座を多く除去/辛さ中:胎座を30〜50%**残す。
03 下処理
- 洗浄→水分をしっかり拭き取る。
- ヘタ除去→縦割り→種・胎座の量で辛さ調整。
- 前冷凍(任意):-18℃で4時間。虫卵リスクを抑え、乾燥を促す。
04 乾燥
- 天日:日陰干し主体で2〜4日。夜露回避、ネット使用。
- 乾燥機:50〜60℃で6〜10時間(厚みで調整)。**最終水分10〜12%**を目安。
- 軽い焙り(任意):80〜100℃で10〜15分。香り強化、青臭さ低減(焦がさない)。
05 製粉・ふるい
- グラインド:石臼/コーヒーグラインダー(バリ式推奨)。
- 粒度分類:
- 粗(フレーク)=トッピング
- 中挽き=万能
- 細挽き=タレ・練り込み
- 汎用ブレンド例:細50%/中35%/粗15%(色・香り・食感のバランス)。
06 保存・品質
- 容器:遮光・防湿・密封。酸素吸収剤を同梱。
- 温度:15℃以下。長期は冷凍。
- 期限:香り・色のピークは製粉後3〜4か月。以降は酸化が進む。
🌟 感想・考察
外圧に対して甘さ(黒ごまマカロン)で切り返す発想が鮮烈でした。見下しに“怒鳴り返す”のではなく、完成度で静かに黙らせる。ここに本作の品位があります。しかも「最高の素材が最良を保証しない」という哲学を、材料よりも工程設計と提示の巧さで証明する構図が気持ちいい。王が一口で「粉が立っているな」と看破する場面は、味覚が単なる嗜好ではなく審級(判断力)として機能していることを示し、二人の関係性——つくる者と評する者——に、緊張と信頼の両方を与えています。ここで“恋”が安易に加速しないのも良いですね。尊重と職能の往復がまず先に描かれるから、後のロマンスが軽くならないのだと思います。
市場への変装外出は、音量を上げないロマンスです。大きな告白はなくても、贈り物の選び方や受け取り方、花を手渡す仕草が、二人の温度を一段上げていきます。私的なさざ波の裏では、水刺間に他国の熟手が入り込む“公のうねり”が増幅し、私情と国益が同じ卓に並ぶ準備が整っていく。静けさで温度を上げ、甘さで誇りを守る——第6話は、その二本柱を丁寧に積み上げ、次話の料理競演を“勝てる物語”として下ごしらえしました。望雲録の行方が揺れることで、ジヨンの目的は単なる「勝負」から「帰還の希望」へと立体化し、勝つ意味が個人と国家の双方で輪郭を持ち始めたのも大きな進展です。
📂 まとめ
工程が素材を超えるという作品の核を、黒ごまマカロンと王の一口で鮮明に示しました。言葉より先に技術で応えるジヨン、技術の中身を言語化できる王——この噛み合いが物語とロマンスの両輪を強くします。市場外出の静かな温度上昇、望雲録の不在がもたらす内なる動機、そして水刺間をめぐる外圧の高まり。どの要素も次回の料理競演に向けて意味を帯び、勝利条件が「味でねじ伏せる」だけでなく、「誇りを回復し、未来を選び取る」ことへ拡張されました。第6話は“前夜”でありながら、すでに物語の勝ち筋を作り終えている——そんな手応えのある一編だったと感じます。
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