一皿で、生き延びろ。
現代の天才シェフ・ヨン・ジヨンが、若き暴君イ・ホンの宮中に突然放り込まれる。処刑宣告の寸前、彼女に許された武器は“料理”だけ。記憶と権力が絡み合う宮廷で、最初のコースはコチュジャン×バターの熱いビビンバ。味で運命を書き換える第1話を完全ネタバレでどうぞ。
🎬 あらすじ(ネタバレあり)

ヨン・ジヨンはフランスの国際大会で優勝し、ヘッドシェフ就任が内定した凱旋の途上、父から頼まれていた古書『望雲録』を開く。皆既日食が重なる瞬間、紙面の文様が発光し、彼女は森の中に立っている。衣装も言葉も違う人々に包囲され、突然矢が飛ぶ。近くにいた青年を庇いながら逃走するが、断崖で足を滑らせ二人で転落。青年の腹部に走った裂傷を見たジヨンは、携行していたワセリンと清潔な布で圧迫止血し、冷えを防ぐ。青年は気丈に立ち上がるが、護衛の到着でジヨンは捕らえられる。彼がこの国の王、イ・ホンだと知らされるのはその後だ。
役所での取り調べは苛烈だ。言葉の訛りや衣服、携行品が“異物”として見なされ、スパイ扱い。ジヨンは「食べさせます、判断してください」と申し出る。厨房に回されると、乏しい食材と煙たい火、傷んだ包丁という悪条件。まずは野菜のアクを短時間で抜き、油は古い香りを避けて新しい鍋肌で温度を上げる。穀は麦を選び、米との比率を調整。卵は新鮮なものを常温に戻し、黄身を別に。香味は胡麻油と醤の辛味で骨子を作る。即席の膳は役人たちの舌を静めるが、女性が台所で“出過ぎた”と咎められ、鞭打ちの刑が決まる。
王の一行が現れ、ジヨンの料理が運ばれる。イ・ホンは僅かに眉を動かし、匙を入れる。辛味の角が乳脂で丸められ、口内で旨味が二段、三段と重なる。王の視線が一瞬だけ遠くを見たように揺らぎ、すぐに冷徹へ戻る。「悪くない」。刑は撤回され、代わりに任が下る──“王の舌に仕える者”として生きよ。ただし条件は苛烈。「二度と同じ料理を出すな。口に合わなければ斬る」。
宮中へ連行されたジヨンは、鍵のかかった部屋と拘束具付きの移動を強いられる。厨房では古参のソ・ギルグムが半ば呆れ、半ば興味で彼女を手伝う。王の寵嬪カン・モクジュは新参の女を冷ややかに観察し、背後では王の叔父ジェサン大君が政敵の情報を集めさせる。ジヨンは初の御前調理に向け、限られた食材から“混ぜる前の構成”を練る。選んだのはコチュジャン・バターのビビンバ。ナムルは水分と食感を揃え、石鍋で香りを立て、仕上げにバターを焦がし気味で回し入れる。卵黄で全体をつなぎ、熱いうちに混ぜる。
王は無言で食べ、最後の一口まで一定の速度で匙を動かす。食後、器は空になっていた。「次は、もっと上だ」。褒賞の言葉はなく、要求だけが置かれる。ジヨンは小さく息を吐き、次に備えて厨房へ戻る。現代への帰る術は見えないまま、彼女の“生存=創作”の日々が始まる。
👥 登場人物の動き
- ヨン・ジヨン(イム・ユナ):現代の天才シェフ。『望雲録』を契機にタイムスリップ。処刑寸前を“料理の一手”で覆し、王の専属に。
- イ・ホン(イ・チェミン):若き王。絶対的な味覚と苛烈な統治。食は記憶の地雷であり弱点。ジヨンに「同じ料理禁止」を通達。
- カン・モクジュ(カン・ハンナ):王の寵嬪。宮中の情報網を握り、ジヨンを警戒。政治の駒としての冷徹さを覗かせる。
- ジェサン大君(チェ・グィファ):王の叔父。権謀術数の中心。ジヨンの“異質さ”を利用しようと機を窺う。
- ソ・ギルグム:宮中厨房の古株。粗く温かい手助けで、ジヨンの最初の味方に。
🎯 名シーン&印象的なセリフ
- 「二度と同じ料理を出すな。口に合わなければ——斬る」
─ 味と命を直結させる、シリーズの根幹ルールが宣言される瞬間。 - 崖下での応急手当:ワセリンと布で止血→体温維持。現代知識が“生存戦略”として機能する場面。
- 初の御前調理:熱した石鍋で香りを立て、コチュジャンの辛味をバターの乳脂で丸める“混ぜる前の設計”が見どころ。
- 王の一瞬の微笑:「……悪くない」──感情が露見し、即座に引っ込む“暴君の盾”。
🍽 技術解説ガチ:第1話の皿「コチュジャン・バター・ビビンバ」を分解する
※以下は料理技法の専門解説です。劇中の調理描写(第1話のコース内容・工程)は一次情報と主要レキャップで確認済み。数値や手順は再現のための一般的な料理理論に基づきます。
コンセプト(要点3つ)
- 辛味の角を乳脂で丸める:カプサイシンは脂溶性。バター(乳脂)で辛味の棘を包み、甘味・旨味を押し出す。
- 香りの三段仕込み:鍋肌の炒香 → 焦がしバター → 仕上げの胡麻油でトップノート。
- “混ぜる前の設計”:水分・塩分・温度をそろえてから混ぜる。米65–70℃、具55–60℃、器は200℃級で“パリッ→しっとり”の二層食感。
構成パーツ(目安4人分)
- ご飯:炊きたて中硬め(米2合:水360–380ml)
- 肉:牛もも/肩180g(薄切り)
- ナムル:
- ほうれん草120g、もやし200g、にんじん80g、ぜんまい(水戻し)80g
- 卵:卵黄4個(全卵可)
- コチュジャン・バター(本皿の心臓部):
- コチュジャン 30g、無塩バター 25g、味噌(できれば韓国の 된장)5g、米酢 5g、はちみつ 6g、にんにくすりおろし 2g
- 仕上げ香油:太白胡麻油 6〜8g(小さじ1.5〜2)
手順(再現レシピ/温度時間つき)
- 米:やや硬めに炊く(吸水30分→通常炊飯)。混ぜタイミングで**65–70℃**に維持。
- ナムルの水分設計
- ほうれん草:塩少量で30秒湯通し→氷水→強めに絞る→胡麻油・塩で軽く和える。
- もやし:沸騰させず90℃目安で2分→ざる上で蒸らし1分→絞る→塩・胡椒。
- にんじん:細切りを少量の油で低温ソテー(色が鮮やかで止める)。
- ぜんまい:戻し汁の雑味を抜き、弱火で含め煮して“水を持たせた状態”で止める。
※目的:水っぽさ禁止。具材含水は“噛んで汁が出ない”レベルに統一。
- 肉:
- 下味(3〜5分):醤油12g、みりん10g、にんにく1g、胡椒少々。
- 高温短時間で両面焼き(厚さ1.5mmなら片面20–30秒)。旨味汁を逃さない。
- コチュジャン・バター
- 小鍋で無塩バターを150–155℃まで加熱し焦がしバター化(ナッツ香が立つ茶色)。
- 火を止め、30秒落ち着かせてからコチュジャン→味噌→はちみつ→米酢→にんにくの順で乳化攪拌。
- 目標は滑らか半流動体。分離しそうなら湯(60℃)小さじ1〜2で再乳化。
- 器(石鍋 or 鋳鉄):空焼きで**200–220℃**まで昇温→薄く油を塗布。
- 組み立て:
- 器にご飯(240–260g)→ナムルと肉を放射状に配置→中央に卵黄→コチュジャン・バター15–18gを点在配置。
- 仕上げに太白胡麻油を外周に回しかけ、下層に熱を与えて**ヌルンジ(おこげ)**の“縁”を作る(30–60秒)。
- 混ぜの作法:運ぶ直前に上下返し→周→中央の順で15回以内に素早く。粘度が高い場合は温かいだしを5–10gだけ足して粘度調整。
科学的バックボーン(簡潔)
- 辛味の丸め:カプサイシンは脂溶性→乳脂(バター)で“包む”と体感辛度が下がる。
- 旨味の相乗:コチュジャン(発酵由来のグルタミン酸)+肉のイノシン酸→相乗増強。味噌少量で“発酵の骨格”を補強。
- 焦がしバター香:150℃前後で乳固形分がメイラード→ナッツ/キャラメル香が辛味と甘味の橋渡しに。
- 温度整合:米>具>器の順に温度段差を設け、混ぜる瞬間に全体を60℃前後で“食べ頃”に収斂。
よくある失敗と対策
- べちゃつく:ナムルの絞り不足/米が軟らかい。→具はキッチンペーパーで水分可視化、米は水少なめに。
- コチュジャン・バターが分離:バターが高温のまま投入/攪拌不足。→155℃→30秒冷却→乳化が鉄則。
- 辛すぎる:はちみつと米酢の比率を+10〜20%、胡麻油を**+2g**で緩衝。
- 香りが弱い:焦がしバターがまだ白い。→薄茶〜琥珀色まで我慢。
バリエーション(読者実践向け)
- ベジ仕様:肉→焼き厚揚げ/舞茸。うま味は干し椎茸粉0.5g追加。
- 強火派:石鍋でおこげを厚くしたい場合、外周だけ押し付けて30秒延長。中心は焦がさない。
- 韓国寄りの骨太味:バターを牛脂10g+バター15gに変更、味噌→된장を増やす(+2g)。
皿の“口内フロー”(理想形)
最初の一口で熱・香り・脂が先行→辛味の丸まり→米の甘み→肉の旨味→後追いの胡麻油トップノート。
ここまでが7〜9秒で一巡する設計が理想。混ぜ回数と粘度で調整する。
✍️ 感想・考察
第1話は“味で裁かれる”という残酷さとロマンの両輪が鮮烈でした。斬首の刃先を、温度・香り・食感の三段で押し返す構図は痛快です。王の「食=記憶の地雷」に触れたときだけ鎧がわずかに凹む演出も良く、ジヨンが倫理線を越えずに権力へ働きかける余地を感じました。毎回“同じ料理NG”の縛りは、物語上の賭け金でもあり、料理描写の創造性を強制する良い足枷ですね。
📂 まとめ
料理が武器であり言語であり、救命手段でもある──。第1話はシリーズの約束事を一気に提示し、ラストには次の皿への期待をきっちり残しました。暴君の舌を攻略する連戦の幕開け、最高のスターターだと思います。
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